山野に自生する鬼グルミ

 スーパーで売っている安いクルミは、私が小さい頃、西洋クルミと呼んでいた代物である。西洋クルミは殻が柔らかく、直ぐに割れて実が取り出し易い。だが味がしない。私が望むものは、鬼グルミのような、油に塗れたものである。

 鬼グルミの尖った先を水に濡らし、フライパンで煎ると僅かに口を披く。そこに包丁をねじ込んで捻ると、上手くいけば、子供の力と度量で三割程度は上手く割れる。あとは、楊枝で実を穿るのである。チラシの上一杯にほぐした実を見て、子供心に満足したものである。

 味噌にみりん、酒、砂糖を入れて炒め、そこにほぐした鬼グルミの実を入れ、再び炒める。これを大葉に包んで更にさっと炒める。これがオカズの一品としては最高である。西洋クルミだと、そうはいかない。北海道で自生する鬼グルミで無くてはならないのだ。

 さて、かように私は鬼グルミが大好きであるが、こちらに来て野生のクルミが意外と多いのには驚いた。ここは開拓の町で生活が苦しく、先祖は自然の植物を集めて育て、そこから様々な実を収穫し、生活の助けと潤いを得ていたと思われる。ところが、最近はスーパーで何でも簡単に手に入るので、世話も収穫もしなくなった。即ち、放置されたままなのである。

 これは我々移住者にとっては、まさに僥倖である。それに驚いた事に、アイヌネギ(キトピロ)、タラの芽、蕗、独活、蕨、二輪草、野草では私の大好きな大花のエンレイソウなど、まさに春は山野草の宝庫なのである。

 話が逸れてしまったが、兎に角、私にとって春は楽しい季節である。

 クルミの話に戻るが、今年は少し収穫に行く時期がズレてしまった。クルミの大木の下に、全くクルミが落ちていないのである。はて、さてはエゾリスに先を越されたか。そう思って諦めて帰ろうとした時、地面から半分位身体を出しているクルミを見つけた。

 エゾリスがクルミをねこばば(この際、ねこばばといっていいのか分らない)しているわけでばない。とんだ濡れ衣である。私の見立では、クルミは落下したあと、自ら土の中に潜り込んでいたのである。だから、一斉に地上から姿を消していたのだ。

 この見立てが正しいかどうかは、来年明らかにしたいと思う。次は時期を間違えないよう、事前にしっかり確認したい。