田舎で感覚が違う事

 人口九万の街から六千弱の田舎へ移住して、六年くらいになる。昨年だったか、道の駅を造るというわけで地域説明会があった。

 説明によると、「この街は牛の数が人間の数より多い。従って牛のイメージを前面に出したい」という事だった。それは一つのコンセプトとしていいのかな。その時はそう思っていた。だが、よく聞いてみると、そこには田舎人丸出しの田舎思想があったのである。

 出席者から「この街が誇れるステーキをメインにしようではないか。高原に焼肉ハウスがあるので、ここを拠点として焼肉ロードってのはどうか」等々の意見が出た。それはそれでいい。

 道の駅というのは、大体暇な年寄が新鮮な地場の野菜を買い求めて来るもんだ、とイメージしていた。考えてみると、果たして年寄夫婦が焼肉のはしごをするだろうか。それはさておき、地元の人がこれ程地場に名物をつくり、売り出したいと思っていたとは意外だった。

 様々な意見が出たが、これはという目新しいものはなかった。

 それより、最後に一番驚いた意見があって、お開きとなった。それは「町にしては巨額な投資をするわけだから、くれぐれも悪徳業者に騙されぬよう細心の注意を払って欲しい」というものだった。この一言を聞いて、昔の事を思い出した。

 北海道の農家は、春はひばりと郭公の鳴き声とともに仕事が始まる。耕し、肥料と種を蒔く。中起、除草と作業は続く。後はほとんど収穫を待つばかりである。総ての収穫が終わるのは、十月か十一月。こうしてみると、農家の労働は実質六か月位である。あとは暇だ。

 実は、ここが問題である。何しろ半年は仕事が無いわけで、大体集まってやることは、花札か麻雀だろうか。ここに悪徳業者が入り込んでくる。最初はどんどん勝たしてくれる。良い気になっていると、家屋敷も土地も総て取られ、丸裸にされてしまう。農地は農家で無い限り所有はできないから、仮登記をする。後は農協の出番である。農協が始末してくれるが、その代わりに総てを失い、家と土地から追い出される。

 昔は、このような事件が一杯あったようだ。ただ、昔の農家の一戸平均所有面積は5町歩である。既に農家には大型化の波が押し寄せ、肥沃な土地は引く手あまたである。こうした苦い思い出が、農家の子孫の身に染みているのである。だから、くれぐれも悪徳業者に騙されるな、という発言が出てくるのだ。今時の若い跡継ぎも、意外と保守的でガードが堅い。それは、先祖が苦い目に遭った話を小さい時から聞かされているからだろう。

 私はむしろ田舎に住んでいるから、いろんな業者の話を聞きたいと思っている。