偽文学【脚本】

《△がいる所へ、●が》
●「話って何かな」

△「あの人と、別れてください」

●「随分唐突だね。私があの人とそういう関係でいて、君に何か迷惑をかけたかな」

△「迷惑な訳ではありません。ただ、あの人が気の毒なだけです」

●「何故?」

△「貴方は、あの人の事を愛していないでしょう?好いてはいるかもしれないけれど、少しもそういう気持ちはない」

●「どうしてそう思うのかは解らないけど、まぁ君がそう思うのであれば構わない。では仮に、もしそうだったとして、やはり君に何か迷惑をかけているかな」

△「私への迷惑などどうでもよいのです。ただひたすら、あの人が気の毒だから言うのです」

●「どうでもいいというのは、後付けだよ。だって君は、あの人を愛しているだろう」

△「はい。私は、あの人を愛しています」

●「であれば、愛している人を傷つけたくないという理由が発生する。それに、君は無関係ではない」

△「そうだと認めれば、あの人と別れてくださいますか」

●「それは私の決める所ではない。あの人自身に言うといい。あの人がそれでよいのなら」

△「あの人は貴方を愛しています。だから、貴方からの言葉ならば聞くと思うのです。私の言葉では意味がない」

●「そこはそれ、君がどうにかすることだ。私の与り知る所ではない」

△「ではもしも、もしもあの人が貴方と別れたいと一欠けらでも思ったら、どうかそれを叶えてあげてください」
《二人一度退場し、今度は♪がいる所へ△》
♪「よく来たね。そこにかけるといい」

△「お願いがあってきました」

♪「君からお願いとは珍しい。どんなことですか」

△「貴方がお付き合いされている人がいると聞きました」

♪「君には言っていなかったかな。えぇ、いますよ。あれこれ世話も焼いてくれている人でね。今度君にも紹介しよう」

△「どうかその人と、別れてはくれませんか」

♪「どうしてそんな事をいうの」

△「あの人は、貴方を愛してはいない。幸せにはしてくれない。だからこそ、離れてほしいのです」

♪「それは出来ない」

△「何故ですか。何故あの人でなくてはならないのです。貴方を愛してもいないのに」

♪「相愛という感情に重点を置いている内は、きっと君には解らないでしょう。どれほど言葉を尽くしても、私の意図は理解できることはない」

△「貴方は沢山の人に求められています。愛されています。貴方を愛さないあの人よりもずっと、貴方を必要としている人がいるのです。何故あの人にこだわっているのです」

♪「いつかもし、君が私の意図を汲めるようになれば、きっとそのような愚かな話はしないでしょう」

△「私も貴方の事を」

♪「どうかもう、帰ってください。そしてもう、ここには来ないでください。私は貴方の想いには答えられない」
《△、はけ。●が現れ》
●「どんな話をしたんだい」

♪「貴方には関わりのない話」

●「別れてほしいと言う話ではなかったかな」

♪「そうですよ。だから貴方には関わりのない話」

●「意地が悪い事を言う。可哀想なものだ。君は残酷な人だ。だって私との関係の話だろう」

♪「私が貴方と別れない限り、これは貴方には関わりのない話ですから」

●「愛してほしいのなら、愛してくれる人の所へいくといい」

♪「そうですね。きっとそれも心地よく、安らげるものでしょう」

●「私は君を愛さない。けして求めず、けして要としない。それでもここにいる事を選ぶのは君だ」

♪「はい。私はそれでもよいのです。他の誰でもいけないのだから」

●「きっとあの子はまた来るだろう。あの子には理解など出来はしない。無知だからでも、無垢だからでもなく、あの子には理解できない」

♪「それならばまた、はなすだけです」

●「君はとても残酷だ。だからこそ君は救われない。無知にも無垢にもなれない君は、これからもずっとそのままだ」

♪「だから私は貴方といるのです。他の誰でもいけないのだから」

●「私は君のそんな所を、とても愛しんでいるよ。歪んでいて、可哀相な所を」

♪「私も貴方のそんな所を、とても軽蔑しています。優しくて、不親切な所を」

●「月が出てきた。今日は十三夜だ」

♪「暖かい物でもいれましょう」

《似非文学》