三番目の女
車も、家も、人も、すべてが大津波に飲み込まれていく。
今日もまた、目が覚めたら涙を流していた。
「あなたのことは、二番目に好きだったの」
深夜のお笑い番組を一緒に見ていた妻から、突然、そう告白された。
「……俺が二番目? じゃあ、一番目の人はどうしたの?」
テレビに顔を向けたまま、そう返す。ちなみに、俺は彼女のことが三番目に好きだった。
「一番目の人とは縁がなかった。その人にとって、私は四番目の女だったの」
おいおい、四番目ってなんだよ。そいつ、どんだけ恋多き男なんだよ。
「その人、モテ男くんだったの? モデル並みの超絶イケメン、とか?」
テレビから目を離さずに、平静を装って質問する。
「うーん、イケメンではないかな。でも、面白いからすごく人気があった」
テレビでは、知らない芸人たちが泥レスを始めていた。普段なら爆笑しそうなシーンでも、今は全然笑えない。そいつはまさか、遊びまくってる芸人とかじゃないよな。
「その人は……一番目の人と結婚したのかな?」
妻を横目で見ながら、そんなどうだっていいことを聞く俺。
「それがねー、どうやら三番目の人とくっついたみたい。私は二番目の男と結婚できたのにね」
妻がニヤッとした顔を向けてくる。私の勝ち、とでも言うかのように。
はあ。なんだか急に、気持ちがクールダウンした。
その男も、俺も、三番目を選んだ。そいつはなぜ、一番目も二番目も選ばなかったのだろう。選ばれなかったのかもしれないが。あるいは俺と同じように、あの震災で多くのものを失った人間なのだろうか。会ったこともないし、会いたいとも思わないが、不思議と親近感が湧いてきた。……ほんの少しだけど。
お前が選ばなかった四番は、今の俺にとっちゃ、ぶっちぎりで一番だよ。お前が彼女を選ばなかったことに感謝。お前の三番も、どーせ今は一番なんだろうけどさ。
気がつくと、妻の寝息が聞こえてきた。話したいことだけ話して、自分はさっさと夢の中かよ。テレビを消し、妻の体に毛布を掛ける。こんな、しなくていい暴露話を新婚旅行中にしちゃうデリカシーのなさが、四番にされた原因なんじゃないだろうか。本気でそんな気がする。
なんとなく、妻のおでこをつついたら、「ほげっ」という変な声が聞こえた。