とある一冊の本
手に触れた埃まみれの白と黒
ただそこに淋しく褪せて佇んで
聞こえない 怯える少女もドラゴンも
聞こえない 世界の終わりも始まりも
門番はポケットのないカンガルー
友だちは頭でっかちな隠し事
常識はみんな万華鏡に詰めこんで
価値のあるただの私がここに残る
強がりな鰯が泳ぎ廻るから
靴紐をほどいて空に放り投げた
翔び方を教えてほしいと口説いたら
そんなもの 後から生えてきただけ、と
ああそうか 私もたしか持っていた、と
取り出した如雨露は既に泣いていた
溢れさせ たくさんたくさん溢れさせ
久々に私の心もおいおい泣いた
手に触れた汐に満ちた白と黒
ただそこに海より広く佇んで
聞こえるよ 今日から明日に繋ぐ音
聞こえるよ 優しい如雨露と鰯の声